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「……ちゃんと俺は背中押せたのかな?」
誰もいない病室で一人ぽつり、と呟く。
その声は広すぎる病室に飲み込まれるようにして消えた。
頭に浮かぶのは純恋の顔ばかり。
それは色々な表情をしていて……
笑っている顔、悲しそうな顔、嬉しそうな顔、怒っている顔、緊張している顔…全てがついさっきの出来事のようで思い出しては胸が熱くなる。
きっと、俺は純恋に何もしてやれなかった。
傷つけることしかできなかったんだろうな。
いっそ……出会わなければよかったのかもしれない、そう思う時もあるけれどやっぱり最後は出会えてよかったと思うんだ。
霧がかって見えなかった俺の未来も純恋のおかげでうっすらと見えるようになった気がするから。
でも、命のタイムリミットが迫ってきた俺にできることは“純恋の中から俺を消すこと”しかできなくて、大切にするどころか酷く傷つけた。
あの日、何気なく行った屋上にいた君は酷く切なく、愛おしそうに空を見上げていた。
そんな君を見た時に俺は一瞬で心を奪われ、その綺麗な唇に自分の唇を重ねていた。
俺の最後の唇の温もり、最後の記憶が君であることを願って。



