姉ちゃんは俺の気持ちを理解してくれたのか押し黙るように涙を流し、頷いた。
でも、生きられるなら手術を受けたかった気持ちもあった。
それをしなかったのは…これ以上姉ちゃんに迷惑はかけられないから。
ただでさえ、昔からヤンチャばっかしてて…今までも本当は旦那さんと二人で暮らしたいはずなのに俺に出ていけ、と言わなかった。
それに俺は知っている。
姉ちゃんが彼氏を作らなかったのは俺のせいだってことを。
俺を養うために必死で働いて彼氏なんて作る暇がなかったんだ。
そんな姉ちゃんがやっと見つけた大切な人。
姉ちゃんの幸せを俺がこれ以上奪うわけにはいかない。
ここで大金を払えば、間違いなくこれからの生活が苦しくなるのは目に見えている。
姉ちゃんのことだから今までよりもずっと仕事の量を増やして無理するかもしれない、関係のない旦那さんにまで被害が及ぶかもしれない……姉ちゃんたちは大人だと言ってもまだ28歳だ。
まだまだ若くて経済的に俺の手術費を払うなんて無理。
だから、俺はイエスとは言わなかったんだ。
その日は生きるという選択が俺の中から消えた日だった。
そこから俺は退院して、家へ帰り普段通りに学校へと行く生活になった。
姉ちゃんが夜な夜な隠れて泣いていたのも全部知っていた。
それを見る度に切なくなって、苦しかった。
自分の命のタイムリミットを知らされているかのようで。
きっと、俺はこのまま…大切なものや人を何一つ大切にできずに傷つけて死んでいくんだろう……と思った。



