「…お母さんね、昔本当は漫画家になりたかったの」



静寂に包まれたリビングにお母さんの震えた声が響き、私の耳に届くと頭の中でこだまする。


そんなこと…初めて聞いた。
お母さんにもちゃんと将来の夢はあったんだ。



「でも、どんなに頑張っても
お母さんの実力じゃ到底無理だったの…っ

苦しくて何度も自分の才能を恨んだわ。
だから、あなたたちにそんな思いはして欲しくないの…

将来、安定した職業について欲しかっただけだったのに…それがあなたたちを苦しめていたのね」



「お母さん……」



お母さんの心の奥底に隠されていた本音に堪えていた涙も限界に達して、一気に溢れ出し頬をツー、と伝った。


お母さんがわたしに夢を諦めようとさせていたのは…これからわたしも経験するであろう辛い思いを知っていたからだ。



「泰知、ごめんね。無理をさせてしまって…
これからは自分のペースで頑張りなさい。
そして、立派な医者になってたくさんの人を救ってね」



「母さん……もちろんだよ。
俺、母さんたちに聞いてほしいことたくさんあるんだ」



きっと、それは難しい頭のいたくなるような硬い話なんかじゃなくて大学でも出来事の話だろう。


その言葉にお母さんは涙を流しながら深く何度も頷いた。