「わたしは確かに才能がないかもしれない。
でも、将来たくさんの人に自分がデザインした洋服を着てもらって笑顔になってもらいたいの」
最初は洋服を描くことが好きで始めた。
それが、だんだん変わっていって最終的にたどり着いた思いはこれだった。
「あのね、純恋…いい加減目を覚ましなさい」
さっきよりも明らかにお母さんの口調が強くなっているのが分かる。
それでも、怯むんじゃなくて堪えるんだ。
「…純恋、本当に心の底からそう思っているのか?」
突然、低い声が耳に届いてそちらに視線を移すとそこには少し前まではテレビを観ていたお父さんがいつの間にかテレビを消してわたしたちを見ていた。
「あなた…!」
「母さん、少し二人で話しをさせてくれ」
お父さんのその言葉にお母さんは何か言いたげだったけれど、押し黙るようにして机の上に置いてあったコーヒーに手を伸ばした。
「どうなんだ?純恋」
「思ってる。だから、諦めたくない。
弁護士だって人を助けるためには大切な仕事だと思うけど、わたしはこの夢を叶えたい」
こんなに親に自分の思っていることを素直に言えたのはいつぶりだろう。
もう随分、ワガママや言いたいことなんて言ってなかったから変な気分だ。



