「じゃあ、聞かないでいいです」


別に他人に話すようなことじゃないのは分かってるから。

こんな事言っても困らせて、言わなきゃよかった、って後から後悔するだけだから。



「やっぱ、前言撤回。キスした仲だし話してよ」


「遠慮しときます」



というか、なんでキスした仲になってるの?


あれはただの事故だし。
あんなのがファーストキスだなんてふざけないで。

と、フツフツと湧き上がってくる怒りの気持ちを必死に抑えて平然を装う。



「無理。ちょっとだけでいいから」



不貞腐れたような表情を浮かべながらも、彼は『頼むよ』とでも言いたげに自分の両手を合わせてお願いしてきた。


ちょっとだけなら困らせもしないしわたしの気持ちも少しは楽になるかもしれない。


だから、不安はあったけど少しだけなら、と話すことに決めた。



「わたしは家に飼われてる羊みたいなもので
自由なんて一切なくて、そのせいか友達もできなくて……」



自分のことを話しているだけなのに、さっきまでは平気だったのに、今は話してるだけで辛くなってきた。
それと同時に虚しさも襲ってくるからものすごく胸が苦しい。




「わたしの世界は真っ白で、一つの色もない」


そう、何も知らない。

孤独とか劣等感とか嫌ものしか知らないわたしの世界。

昔は色とりどりだった世界もいつしか誰かの手によって何も無い真っ白な色に染められていた。

きっと、わたしの世界が昔のように再び色づくことはもうない。