「純恋の兄です。
リビングに父さんたちがいるから一緒に行こう」
お兄ちゃんは優しいから何も聞かず、要くんとわたしをリビングまで誘導してくれた。
きっと、彼氏だと思っているんだろうな。
「おかえり、遅かった……ってどちら様?」
お母さんが机を台拭きで拭きながらわたしたちを見て…いや、要くんを見つめて固まっている。
お父さんも新聞を広げて、この状況を読み取れていないよう。
「こんばんは、夜分遅くにすみません。
純恋さんと同じクラスの須藤要といいます」
要くんはわたしよりも一歩前に出て軽く頭を下げた。
そんな様子をお父さんとお兄ちゃんはともかくお母さんだけは怪訝そうな表情で見ていた。
「だからってどうしたのかしら?」
少し強めの口調でお母さんは言い、お父さんの座るソファの隣に腰を下ろす。
「純恋さんのお話を聞いてあげてください」
要くんはわたしに笑いかけて、頑張れと言ってくれているような気がする。
彼がわたしに微笑むだけで、それだけで緊張がほぐれて安堵の波が押し寄せてくる。
「わたし、このコンテストに応募したいの」
そう言ってお母さんとお父さんの前にこの間大学でもらった紙を差し出す。
それをお母さんが手に取り、マジマジと見て読んでいる、その隣でお父さんが紙を覗いている。



