その須藤くんの声にわたしは反応できずにただ黙って上を見上げた。
だって、下を向いたら須藤くんと視線がぶつかるのが分かっていたから。
「ごめん…ほぼ無意識だった」
申し訳なさそうに言うと、今度は何を思ったのか須藤くんはわたしの後頭部を抑えて自分の方へと優しく押しつけた。
わたしの視界は暗い。
と、いうより何も見えない。
いま、わたしは須藤くんの腕の中。
耳に届くのは彼の心臓のドッドッドッと脈打つ音だけと心地よい呼吸の音だけ。
緊張……してるのかな?
「ねぇ、君は真面目で有名な越智(おち)ちゃんだよね?」
突然の思いもよらない言葉にわたしの胸はどくんっ、と大きく高鳴った。
だって、あの須藤くんがこんな地味でどうしようもないわたしのこと知ってるなんて思わないじゃん。



