懐恋。

このままではこいつに八つ当たりしたままで、せっかくのデートが台無しになると思って、目に付いた喫煙所に行って、タバコの煙を吐き出しながら溜息も一緒に吐き出して、乱れた心を落ち着かせる。

あいつはおどおどとしてて、あー、俺がビビらせちまったんだな。って自己嫌悪に陥って。大人の余裕もくそもねーだろ。なんて心の中で自分に突っ込んで、短くなったタバコを灰皿に捨て、あいつの所に戻ろうと歩いてたら泣いてる明音が居た。チクショー。俺はこいつを泣かせたいなんて思ってなかったのに。最悪な事しちまったな。って慌てて明音の元へと駆け出した。

「明音、どーした?」

なるべく優しく声を掛けようとした所、自分で思ってる以上に甘い声が出たことに苦笑する。

「ん…先生…」

「なぁに?手首が痛かったか?」

「んーん…ごめんなさい…」

んーん。って横に頭を振って、可愛いなーなんてこんな状況でも思ってたら謝罪の言葉が耳に届いた。

「ん?なんで謝ってるの?」

「ん…んー…先生を不機嫌にさせてごめんなさい…でも、不機嫌にした理由が見つからなくて…ごめんなさい…」

時々零れた涙を拭いながらそれでも懸命に言葉を伝えてこようとする明音が無性に可愛くて、気付けば明音を俺の腕の中に閉じ込めていた。