懐恋。

電車から降りた先生はさっきまで優しかった先生と違って、隣同士で歩いていたはずなのに私の歩くスピードはお構い無しにぐんぐん先に行って、突然態度が変わった先生は怖かった。何回も呼んでも気付いてもらえず、握りしめられた手首が痛かった。わりー。と謝った先生は掴まれていた手首を離してくしゃくしゃと頭を掻き毟る。その表情は冷たいような、悲しいような、なんとも言えない表情をしていた。

「あ…あの…どうしたんですか?」

おどおどと尋ねると、別にって言われてやっぱり先生の状態がなんだかおかしい。

「私…何かしましたか?」

「いやー、あ、ちょっと待ってて。ここで。」

そう言ってスタスタ歩き出した先生を目で追うと、喫煙所に立ち寄ってタバコを咥えて、ライターで火を付けた。何気ないその一連の動作さえ、なんだか色っぽく見える。って、そんな事を考えてないでどうして先生は不機嫌になってしまったのだろうか。私気付かない所でなんか気に障るようなことしたのかな…?先生に怒らせるような事しちゃったのかな?優しかった先生が急に不機嫌になるんだもん。原因は私にあるはずなのに考えても考えても分からなくて、分からない自分がなんだか嫌で、気付けば自分の目からポロポロと涙が零れ落ちていく。