懐恋。

ずりーって思われてもいい。ただこいつの中に俺という存在を刻みたい。そんな理由で駅に向かい、迷子になるだろ?って理由を付けてこいつの手を取る。明音の手はちっちゃくて、だけど温かくて自然と緩みそうになる頬をバレないように平常心を装う。途中の駅から人が大量に入ってきた時には離したくなかった手を離しざるをえなくて、それでもこいつを守ろうと扉に俺の手を付けた時には、そのまま俺の腕の中にこいつを抱き締めたかった。
こいつが俺の目を見て笑ってきた時までは楽しかったのに、何度名前を呼んでも答えてくれなくてそこまで楽しかった俺の気持ちが一気に萎えた。
俺はデートだと思ってるこの時間にお前は何を考えてんの?聞いても内緒とか言われるし。百面相の中に照れた顔のような頬がほんのり紅くなってたりしてたけど、誰を想ってそんな顔してんの?なんて言えたら楽なのになー。

「先生…先生…学さん…学さん!」

「んあ?なに?」

「あの、ちょっと手首が痛いです…」

怒りのまま歩いてたら明音からちゃんと名前で呼ばれて、足を止めて振り向いたら泣きそうな顔をした明音が、ちっちゃい声で俺に痛みを訴えてきた。

「あ、わりー。ごめんな。」

チクショー。大人気ねーよな。怒りのままこいつにぶつけて歩くなんて。