わたしは、一旦バスを停めてもらい、土手に出た。


「天気いいっすねぇ?先輩」

稲葉はグッと伸びをしながら、わたしを見た。

「あぁ…」

「でも意外だなぁ。
あの大人しくて優等生の紅野先輩が、こんな性格だったなんて…」


わたしは、自分よりも背の高い稲葉の顔を睨んだ。


睨まれた稲葉は、少し肩を震わせた。



「大人しくて優等生なんて…貴様らが勝手に持っているイメージだろ」


「スイマセン」



謝る稲葉を無視して、わたしは川原に向かって歩き進めた。


風が気持ちいい…。



肌を撫でる五月の風は、微かに草木の香がする気がした。



壱里は、この風が好きだと言っていた。








この風になりたいと





言っていた。