梓の栗色の髪が、窓の隙間から吹いた風に揺れた。



梓はそっと唇を離し

俯いた。




「……あづ…」

「ごめんね…?でもあづ、いばらちゃんが好きだから…」

「……」

「いばらちゃんは、あづのことなんか何とも思ってないだろうけど…」




それでも好きだから…


と梓は呟いた。










答えることのできない梓の想い。




わたしはただ黙るだけだった。



薄汚れた床を眺めていると


そこに透明の滴が落ちた。




「…!…あづ……」

「ごめ……あづからしたくせに…
……あは……何でだろ…。
……お…おかしいな……ぁ」



梓の瞳からとめどなく溢れ、流れる大粒の水滴。




「梓…」

「……」



梓は何も言わずに涙を拭い

わたしの前を去った。









「……好きになってくれて……ありがとう」




わたしは廊下に出来た梓の涙の跡を見つめ


ぽそりと呟いた。