「日村莉子(ひむら りこ)と申します。ナオミさんの代理で参りました。ご無礼をお許し下さい」
心の叫びなんかおくびにも出さず、私はしおらしく頭を下げた。
なのにデレクは不愛想だった。
「これからすぐに会議に入る。僕の部屋にシアトル・コーヒーのカフェラテを届けておいてくれたまえ」
私とスーツケースを置いてきぼりにして、さっさといってしまった。後ろ姿がやたら颯爽としてるのが憎たらしい。
嫌な感じ!せっかく迎えにきたってのに!なによ、カフェラテって!
男ならブラックでいけば?
エレベーターの賭けに勝ったのに、良いことなんて何もないじゃん!
えいっ!ゴツ。
デレクの代わりにテカテカ黒光りしてるサムソナイトを一発蹴飛ばしてやった。
「莉子、社長がお呼びよ」
ナオミさんに声を掛けられて私はどきりとした。友達でもないのにファーストネームで呼ぶのは、多分この会社が外資系だからだと思う。
うー、やはりきたか。
私は深呼吸をした。
社長室に行くには、一旦廊下へ出なくちゃならない。Presidentと表札のついたドアをノックする。
呼ばれて社長室に入るなんて初めてだ。

