すごい、こんな間近でヘリコプター見たの初めてだ!
トランシーバーを持った警備員に「今、到着したところですよ」と声を掛けられた。
その開いたドアから、グレーのスーツを着た背の高い男が窮屈そうにしながら降りてきた。
社長のデレク・ワタナベだ。
時折吹く風がスカートの裾をいたずらするのを抑えながら、私は駆け寄った。
「社長、お帰りなさいませ!お荷物お持ちします!」
小ぶりのスーツケースの持ち手を奪い取ろうとした。すると、デレクが立ち止まり、澄んだ青灰色の瞳とは裏腹に表情を曇らせた。
「……あなたは誰?」
端整な顔立ちの唇から放たれた言葉に私はショックを受けた。
超小所帯とはいえ、社長は社長。雲の上の人だ。こちとら入社三ヶ月だし。
でもでもでも!社長がいらっしゃる時はシアトル・コーヒーで鍛えた腕前でコーヒーお入れしていましたよ!市販のドリップコーヒーだけど。
お好みはお顔に似合わずミルクたっぷりでしたよね!美味しそうに召し上がってたじゃないですか!名前ならともかく、顔すら覚えてないとか……ヒドイ…
社長とはいえ、4人しかいない会社なのに…!

