「本社で、最初に会った時、断ってくるんだろうなぁって思ってた。」
「私も、お見合いは、断るつもりでしたよ。だって、なんかもの凄くやる気が無さそうだったし。」
「緊張してただけだ、って言ったら信じてくれるか?」
彼女の手を強めに握って、顔を覗き込んだ。
「なっ、なんですか?急に・・・」
彼女は、焦ったように、顔を背けた。
照れているようだ。
「でも、断られなくて良かった。森高さんには、感謝しないとな。」
そう言うと、彼女が、こっちを向いて言った。
「あっ、聞きましたよ、私がこっちに来る前に、実家に挨拶に来たって。」

 ああ、あの時のことか。すぐに思い出した。
本当は、彼女と話すつもりだったが、忙しかったらしく、彼女の両親と話した。
「ああ、いくらなんでも、何も知らせずに、同居するわけにはいかないだろう。でも、愛実は、結局知らされてなかったみたいだけどな。」
「そうですね、来て初めて知りました。」
「まあ、でも結果的には、良かったんじゃないか?」
「そうですか?」
「うん、だって今更、電車通勤とか無理だろ。」
「ああ、確かにそれはそうかも。 先に知ってても、こっちにきたかなぁ。 まぁ、取りあえず、真相が解って良かったです。 始めから悠斗さんに聞いとけば良かったですね。」

「まぁ、そう言うことだな。ついでに聞いときたいことある?」
「う~ん、お見合いを断る気がなかったんですか?始めから。」
「ああ、そうだね。断ろうとは思わなかったよ。」
「なんで?」
「知りたい?」
こくこくと彼女が、頷く。
その彼女の頬を両手で挟んだ。
そして、自分と目が合うようにこちらを向かせる。
そして、ゆっくりと言った。
「俺、愛実のこと知ってた。5年前に会ってるから。」
「えっ」彼女はそう言ったきり、何も言えないでいるようだ。
混乱しているのだろう。目を見開いて、瞬きを繰り返した。
「それ以上は、教えない。そろそろ飯にするか。風呂掃除してくる。」そう言って、立ち上がった。