断りきれなかった。
なんだかんだと言われ、面倒くさくなり、自分の部屋へ逃げてきた。
 とりあえず、半年ほど様子をみてからでもいいだろうと言うばかりだった。
 まぁ、半年と言うより、パスタの発売までってことだろうけど。それなら、仕事と割り切って行くしかないのかしら。 
 そんな感じで、私は、来月から武尊食品にいくことなった。

 それからは、怒涛の日々だった。
いろいろ引き継いだり、せっかく任された新店舗、県内の記念すべき10店舗目の開店準備も、泣く泣く店長に任せるはめになった。
これに関しては、周りに、泣きわめいた。
せっかくここまで来たのに、どうして離脱しなければならない。

 きっと、そんな事があったから、東京に来てからの住む所とか全て、父に任せてしまった。
だって、任せとけって言うから。
家具付きだとか言うから!

 なんで、こうなった。
 
 渡されていた鍵で、部屋に入ると、明らかに人が住んでいる様子。
だって、テーブルの上に置かれたままのリモコンだとか、本棚に本が置いてあったり。
やっぱり、誰かが住んでいるよね?おかしい、部屋を間違えた?
いや、渡された鍵でドアが開いたのだから、多分、合ってるはずだ。
どういう状況だ、これ?
暫く立ち尽くしいると、玄関のほうで音がした。
あっ、やばい。事情を説明しないと。
とっさに振り返り、ああ、そういうこと。
なんとなく理解した。

 「あっ、もう着いてたんだ。」
彼は、玄関で靴を脱ぎながら、淡々と言った。
 
 はぁ~、溜め息を吐いてから言った。
「ご存知だったんですか?」
「おっ、デジャビュ」
ああそうかい!心の中だけで突っ込み。
「どうも、父は、秘密主義なようで…」とだけ返しておいた。

 まぁ、お父さんが、言わなかったのも、なんとなく分かるけど。
まさか、住む所が見合い相手の部屋とは言えまい。いくら、見合い相手だからって、いいのか、親父?

 そう、この部屋は、武中悠斗の部屋だった。

 私が考えている間に、武中さんは、「ここが君の部屋だから」と、事務的に対応しだした。

ああ~、なんだか、先が思いやられる。