「本末転倒だな、それ。」そう言って、彼は笑った。
「何で、笑うんですかー?そもそも、悠斗さんが、女遊びばっかしてるからでしょうが!」
「わりぃ、わりぃ。ハッハハハ」責められても笑ってやがる。ドMか?
「いや、でもさぁ、」と彼がニコニコとこっちを見てくる。そして、少しだけ、顔を近づけて言った。
「嫌いには、なってないんだろ?何で?」
「うっ・・・」
何でだろう?呆れて嫌いになったっておかしくないのに。
だって、居心地良すぎるんだよねぇ。
朝も送ってくれるし、ってまぁついでだけど。
帰りも運転してくれるし。たまに、疲れてそうな時は、私が運転するけど。
それに、話してて苦じゃないっていうの?なんか話し易いんだよねぇ。
 キスされて、ドキドキしたし。デートも嬉しかったし。いや、それって、もう普通に恋人じゃん。
いや、待って、今はなんて言うの、お試し期間って感じ?そう、だから、
「今、結論を出すのは早いので、嫌いにはなりません。」
「何、その屁理屈。」
「私の中では、ちゃんとした理屈です。」
「いや、論点ズレてるから、俺が聞きたいのは、嫌いになるかどうかじゃなくて、嫌いになれない理由を聞いてるんだけど。」
「えっ、だから、そこの追及は、時期尚早です。」
「意外と強情だな。いや、意外じゃなかったか、まあいいや、もう寝る。おやすみ」そう言って、彼は立ち上がって、自室へ入っていった。
繋がれていた手が離れて、寂しい。
好きだって言えるほどの気持ちはないくせに、手は繋いでて欲しいとか、何様だよ。
はぁ、おやすみのキスも無かったな。
デート以来、たまに、キスとかするようになった。でも、いつもしてくるのは向こうからで、私は、待ってるだけだ。
って、待ってたのか?待ってたんだ私。
ああ、だめだ。ダメだよ。何で?