後少しで何事もなく、平和な高校生活のまま卒業出来る予定だったのに……。


「長瀬!こらっ!」


私を抱き締める長瀬の力が緩んで、同時に私の体に重みがのしかかってくる。


「……長瀬?」


「スー…スー…」


……嘘でしょ?


長瀬は、私の体に体重を預けたまま、完全に眠りに落ちていた。


何これ重いし。


ずっと抱きしめられたままとか、本当にやめてほしい。


さっきまできんきんに冷えていた体が、すっかり火照ってしまっている。


「……体力あるなんて、絶対嘘でしょ……」



教室の窓の外は、さっきまで雨が降っていたなんて信じられないほどの夕焼けで。


綺麗な橙色の空が、教室の中までも淡く染める。


しんとした教室の中はまるで時間が止まってしまったみたい。


その静けさを破るように私はゆっくりと口を開いて。



「……ありがと」



長瀬を起こさないように、そっと囁いた。