「あれ?花枝、長瀬に話してねーの?」
「話すって何を?」
金城くんは、しまったという顔をしたかと思うと、顎に手を当ていったん何かを考え込むように黙り込む。
しばしの沈黙。
今更取り消すことができないという結論に至ったのか、金城くんは諦め顔で……。
「花枝。お前が行く大学、ここからじゃ通えない地方の大学だろ?」
–––––––時が止まる。
長瀬の腕の力が弱まったので、恐る恐る長瀬の顔を見上げると、長瀬の表情は目をむいたまま完全に凍りついていた。
「………センパイ。どういうこと?」
普段無表情な長瀬が、いつも以上に感情のこもっていない瞳を向け、私はそれに射すくめられてしまう。
………………しまった。
完全に忘れてた。
この短期間で色んなことがありすぎて、長瀬に伝えることを完全に失念してた。
この真っ白な冬を越えれば、すぐに春がやって来る。
だけど、その春にはもう私はここにいない。
長瀬とすぐに会える距離に、私はいない––––。
***
「咲希ってさ、しっかりしてるように見えて、ほんと重要なとこ抜けてるよね」