“離婚”という直接的な言葉を言うのは気が引けて、そんな言い方になってしまうと「そうなのね」と言って長瀬のお母さんは、コーヒーをティースプーンでかき混ぜながら話し始めた。
「渉くんの父親と離婚したのは、渉くんが10歳の時だったの。渉くんの父親が単身赴任で離れた場所に暮らすことになってしまってね。それからかしら。家族に会えない時間と一緒に彼の気持ちまで離れていってしまって…。渉くんはああいう子だから、あの時何も言わなかったけど、きっと凄く寂しかったと思う」
まだ10歳の長瀬の気持ちを思って、胸がギュッと痛くなる。
「その時から、私は渉くんから父親を奪ってしまった罪悪感で、彼に申し訳ないと思う気持ちでいっぱいになってしまって、彼を叱ったり、想いをぶつけたりすることができなくなってしまったの」
「叱る…ですか?」
「そう。 渉くんがどんな悪さをしようと、自分には彼を叱る権利がないってどこかで思ってしまって…」
うちのバカ3兄弟が、叱られてない日なんて見たことがないから、何だか驚いてしまった。
叱られないに越したことはないだろうけど、悪いことをして叱られないのもどうなんだろう?



