外郎売り

第五

鮒(ふな)、きんかん、椎茸(しいたけ)、
定(さだ)めて後段(ごだん)な、そば切(き)り、
そうめん、うどんか、愚鈍(ぐどん)な
子新発地(こしんぼち)。 

小棚(こだな)の、小下(こした)の、小桶(こおけ)に、 こ味噌(みそ)が、こ有(あ)るぞ、 
小杓子(こしゃくし)、こ持(も)って、こすくって、
こよこせ、おっと合点(がってん)だ、 

心得(こころえ)たんぼの川崎(かわさき)、
神奈川(かながわ)、程ヶ谷(ほどがや)、
戸塚(とつか)は、走(はし)って行(い)けば、 
やいとを摺(す)りむく、三里(さんり)ばかりか、
藤沢(ふじさわ)、平塚(ひらつか)、
大磯(おおいそ)がしや、小磯(こいそ)の宿(やど)を
七(なな)つ起(お)きして、 
早天早々(そうてんそうそう)、
相州(そうしゅう)小田原(おだわら)とうちんこう。
 
隠(かく)れござらぬ貴賤(きせん)群衆(ぐんじゅ)の
花(はな)のお江戸(えど)の花(はな)ういろう。 
あれあの花(はな)を見(み)てお心(こころ)を
おやわらぎやという。 

産子(うぶこ)、這子(はうこ)に至(いた)るまで、 
この外郎(ういろう)のご評判(ひょうばん)、
ご存(ぞん)じないとは申(もう)されまいまいつぶり、 
角出(つのだ)せ、棒出(ぼうだ)せ、ぼうぼうまゆに、
臼(うす)、杵(きね)、すりばち、
ばちばちがらがらと、 
羽目(はめ)をはずして今日(こんにち)お出(いで)の
いずれも様(さま)に、 
上(あ)げねばならぬ、売(う)らねばならぬと
息(いき)せい引(ひ)っぱり、
東方(とうほう)世界(せかい)の薬(くすり)の
元締(もとじ)め、薬師(やくし)如来(にょらい)も
照覧(しょうらん)あれと、 
ホホ敬(うやま)って、ういろうは、
いらっしゃりませぬか。