第二

イヤ最前(さいぜん)より家名(かめい)の
自慢(じまん)ばかりを申(もう)しても、 
御存知(ごぞんじ)ない方(かた)には、
正身(しょうしん)の胡椒(こしょう)の
丸呑(まるの)み、白河夜船(しらかわよふね)、 
さらば一粒(いちりゅう)食(た)べかけて、 
その気見合(きみあ)いをお目(め)にかけましょう。
 
先(ま)ずこの薬(くすり)をかように
一粒(いちりゅう)舌(した)の上(うえ)にのせまして、 
腹内(ふくない)へ納(おさ)めますると、 
イヤどうも云(い)えぬは、胃(い)、心(しん)、
肺(はい)、肝(かん)がすこやかになりて、 
薫風喉(くんぷうのんど)より来(き)たり、
口中(こうちゅう)微涼(びりょう)を
生(しょう)ずるが如(ごと)し、 
魚鳥(ぎょちょう)、茸(きのこ)、麺類(めんるい)の
食合(くいあ)わせ、其(そ)の他(ほか)、
万病(まんびょう)速効(そっこう)ある事(こと)
神(かみ)の如(ごと)し。 

さて、この薬(くすり)、
第一(だいいち)の奇妙(きみょう)には、 
舌(した)のまわることが、銭(ぜに)ゴマがはだしで
逃(に)げる。 

ひょっとしたがまわり出(だ)すと、
矢(や)も盾(たて)もたまらぬじゃ。