オレは言葉を切って、振り返った。
奈央さんの静かな目が、オレを見つめていた。
やっぱり、どことなく親父のあの目の面影があるな。

オレがとことん弱い、あの目だ。

そんなことを考えながら、再びオレは話し出す。
千切れた映像をより合わせるように、記憶を再生しながら。


「その日はオレの誕生日でさ。
先生は、オレが欲しがっていたおもちゃを持ってお祝いに行くよって、前から約束してくれてた。

お袋は夕方から張り切ってキッチンに立って。
いい匂いが、部屋中に漂ってて。
オレはワクワクしてた。

そして、インターホンが鳴った。

——あ、先生が来た! ぼく出るね!

オレは、ドアを開けた。

——先生、早かっ……

言葉が、空中にかき消えた。

だってそこに立っていたのは、先生じゃなくて。


工藤だったから。