「……ごめん。」
だから私は、私の髪を梳く手を止めてそう呟くかずくんに驚いて、目を見張った。
「なにが?か……か、かずくんが謝ることなんて何もないよ。
そうだ、私が謝らなくちゃ……!」
我に返るとやっぱり名前を呼ぶのはまだ恥ずかしくてためらってしまうものの、私は言わなければいけないことを思い出した。
今までのこと。
ずっとかずくんと一定の距離をずっと保っていたこと。
でもかずくんは、まるで全部お見通しとでも言うようににこっと笑ってみせた。
「今まで俺が距離詰めようとすると後ずさったこと?
それとも今まで1回も名前呼んでくれなかったこと?
それとも……1回も、“好き”って言ってくれなかったこと、か?」
ああ、かずくんには全部筒抜け。
それに、なんでもない風を装ってはいるけど、
……やっぱり気にしてたんじゃん……!
微笑みながらもどこか恨めしげな視線を向けてくるかずくんに、私は謝ろうと口を開いた。
でもかずくんは、また私を遮る。
「まあ、やっぱり、正直。……ちょいへこみはしたけど。
良いんだよ。お前はそれで。俺はそんなお前が好きなんだ」


