ぼうっとした頭でそんなことをひとりごちながらただかずくんを見つめていると、私の視線のだいぶ上で彼の厚めの唇が開いた。
「なあ、あき。
……俺も、あきのことが、好きだよ」
かずくんが私のことを“好き”って言ってくれたことは、今までに何回もあった。
でも、でも……かずくんの瞳に浮かぶのは、今までとは決定的に違う熱で。
私はその熱に、浮かされて、踊らされて、魅入られて―――何も、できなくなる。
震える唇でどうにか「うん」と頷くと、かずくんは目尻をぐっと優しく下げて、それから私の髪を軽く指先で梳いた。
……本音を言えば、もうここから逃げてしまいたい。
私はとっくの前にキャパオーバー。
不甲斐ない私のせいで、私とかずくんは頭を撫でたりぐらいしか、触れ合ったことなんてなかった。
それなのに、ぎゅっ、て。は、ハグ……!
きっと私の顔はひどいことになってる。真っ赤で、ブサイクで。
いつも私が恥ずかしがれば、行き場の無くなったその手をそっと隠してくれていた。
でも、かずくんは、今。
―――それを許してはくれない。
「か、かず、くん……」
かずくんは、まるで魔法にでもかかったみたいに、私を見つめたまま。私を優しく撫で続けたまま。
「あき」
―――それなら……私は、そんなきみに魔法をかけられたんだ、きっと。
ずっと一緒にいたはずなのに。
初めての熱に、色に。
絶対に、逃れられない。


