「そうじゃないって……もー、でも、ほんとあんた“ら”、面倒臭いのよねー。
あんたもいい加減気づいてやりなさいよ」
その視線と棘を含んだ物言いの意味がわからなくて、私はたじろぐ。
「ど、どーゆーこと?」
すると花はもうしばらくじーっ私の目を睨みつけた後、気が抜けたようにふいっと視線を逸らした。
「恋ってのはこうも人間を愚かにさせるのかねぇ。
……まあだからおもしろいんだけどさ」
うんうん、と知ったげに頷く花になんとなく腹が立った私。
「花、なんか……ばばくさいよ?」
と、思わずそう言ったら容赦無くヘッドロックをかまされた。
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放課後、もう教室には私と花、そしてクラスメイトの男の子しかいない。
私はまだじんじんと痛む頭部を擦りながら恨めしげに花を睨んでいた。
結局花はあれ以上何も教えてくれないし……!
むー、と花に向かって唸りながら歩き出すと足元を良く見ていなかったので、がたん、と机に足が引っかかった。
「うお、っとと!?」
予想外の出来事に体勢を思いっきり崩すと、誰かが私の腕を掴んで抱きとめるようにして助けてくれた。
お礼を言って顔を上げると、そこにあったのはクラスメイトの相生くんの顔で、想像していたよりもずっと近くにあったその笑顔に私はぎょっとして顔を反らす。


