【短】旅立ちの日に




自分はしばらく黙っていたが、何も言わなさそうだとわかると、手を離し、

咳払いをして少し声の調子を変えた。



「帰ってきたときにやりたいことがありまして」



自分は彼女の目を見る。

少し気恥ずかしかった。



「プロポーズというものをしたいんです」


彼女は固まった。

暫く呼吸を忘れたかのように動かなかった。


そしてゆっくりと手で口を覆い、何度も頷いた。


その度に、彼女の目尻からこぼれ出る涙が粒となって落ちていった。