「失礼します」
自分も僅かに脚を崩し、改めて父親と彼女をみた。
「誠実そうな男で、安心した。」
父親は朗らかに笑った。
彼女の顔は、堅いままだ。
「君は、陸軍なのだね?」
「はい。今は中尉を務めております」
「その若さで中尉は、大したものだ。」
「恐れ多いです」
暫く2人で話をしてから、父親が彼女の方を見て言った。
「今日は2人で散歩でもしておいで。
この庭や近辺も、なかなか風情があるぞ」
彼女が緊張しているのを見るに見かねたのだろう。
父親はそういうと、ゆっくりと立ち上がり、居間のふすまを開いたまま、部屋を出て行った。