息を吐きながらコップを置くと北都は再びカーテンを閉めた。

落ちそうな気持ちを振り切るように北都はそのまま研究室から出ていく。

今日は天気がいいようだ、降り注ぐ太陽光に目を細めると北都は広い中庭を見渡した。

離れの研究施設には誰も近寄らない。

少し離れた場所にある大きな本宅では今頃たくさんの使用人が働いて賑やかにしているだろう、よく見ると遠くで庭師が作業している姿もある。

「おーい、手を貸してくれー!」

「おー!」

遠くで助けを求め答える御者たちの会話も聞こえてきた。

穏やかな空間だ。

一通り日常を感じ取ると研究室から一番近い、使用人が使う勝手口から慣れたように本宅に入っていった。

「あはは、栢木も健気だね~。」

「ちょっと笑わないでよ、真剣なんだから!」

本来ならまっすぐ目的地に向かうところだが何やら楽しそうに騒ぐ女性の声に足を止める。

そこはいつも北都が食事をする際に使う部屋で、そこから栢木の声が聞こえた気がした。

「これも北都様の為なんでしょ?もうすっかり北都様一色じゃない。」

なんとなく興味がわいて部屋に入ろうと扉に手をかけるが、中から漏れてきた声に思わず手を止める。

今の声は栢木ではない。

少しだけ扉を開けて中の様子を伺うことにした。

北都の指定席には栢木が座り、その横に給仕係のミライが立っている。

北都の位置からは二人とも後ろ姿になっていて表情は分からない、しかし仕草や雰囲気でなんとなく感情は伝わってきた。

そして部屋の中から漂ってきた香りに何をしているのかの予想もつけられそうだ。