光も風もすべて遮断したつもりだった部屋に僅かな光が漏れて入ってくる。

カーテン越しの微かな光を背中に感じて北都は目を覚ました。

どうやらまた力尽きるように机の上に倒れこんだらしい。

体を起こすと頬や手に付いていた書類がはらりはらりと重力に負けて落ちていった。

紙には読みにくそうに書かれた数式や記号がいくつも並んでいる。

舟をこぎながら計算式を書いていたのだと目を凝らして自分の書いた文字を読んでみた。

かろうじて読めるか。

「痛って…。」

伸びをすれば凝り固まった筋肉や関節がギシギシと悲鳴を上げて北都を唸らせた。

どれくらい眠っていたのだろうか、白衣のポケットから懐中時計を取り出して見るともう昼は過ぎていた。

おそらく昼食は運ばれている筈だ。

立ち上がろうと体勢を変えた瞬間、頭に痛みを感じて手を当てた。

視界が歪んだように感じたのは気のせいではない。

この状態になった時はいつも暫くは動けないと分かっている、慣れたものだ。

「落ち着いたか…。」

長く固まっていた体勢を起こし、手を握っては開く動作を繰り返して自分の体を確かめた。

ため息に含まれる感情もいつも通りだ。

足元にある書類の文面を見て眉間にしわを寄せると、裏返しで机上に置き立ち上がった。

カーテンを開け全身に光を浴びることで体内時計を正常に戻していく。

箱の中にあった瓶から錠剤を取り出し、水で一気に体の中へ流し込んだ。