中では待機していたミライが北都に挨拶をして迎えている様子が見える。

「あら、まあ…。」

突然の北都の行動をようやく理解したのか、マリーは吹き出すように笑った。

「まあまあ。」

昨日のことが思い出されて顔がにやけてしまう。

昨晩、夜遅くの出迎えを嫌う北都の意向を酌んで使用人たちの出迎えは控えていた。

それが良かったのだろう、でなければあんな事はしない筈だ。

年老いた者同士だがマリーとダンであの後夜通し話し込み散々盛り上がったところで2人の胸の内に留めていこうと口を合わせていることは秘密。

きっと北都と栢木の間で何か進展があったのだと確信を持っていた。

眠れないと言っていた栢木、きっと今は疲れきって深い眠りについているのだろう。

色んな事を想像するとあまりの微笑ましさにマリーは嬉しくて仕方がなかった。

やはり期待通り、北都に変化の兆しが見えたのだ。

そんな北都はもう食卓の前に着席して食事を始めようとしている。

「かしこまりました。」

そう歌うように呟いてマリーは静かにその場から離れた。

歩いている間も笑みが止まらない。

北都の希望通り、誰も栢木の部屋には近付かないようにしてゆっくり休んでもらうことにした。

「マリーさん、栢木がまだ出てきていないんですけど…。」

栢木の不在に不安そうな顔をした者たちがマリーに助けを求めてくる。

「ふふふ。いいのよ、栢木は今日お休みなの。起こしに行っちゃ駄目よ?」

「え、お休み?…あの、何か体の具合でも…。」

「大丈夫よ。今日は栢木の初めてのお休みなの。聞かれたら皆にも伝えておいて頂戴。」