陽だまりの林檎姫

隠していた訳ではないが、気付かれないだろうと思っていたのは確かだ。

そこがいけなかったのだろうか。

「俺への当てつけか?」

「え?」

栢木が視線を逸らして考えているとまた不機嫌な低い声が降ってきた。

「お前は俺よりも立場が上の、それこそ会話することなんて出来ないくらいの身分の持ち主だ。そんなお前が俺に雇われることで庶民の足掻きだと笑いにきたのか?」

何を意図して言われているのかが分からず、栢木は瞬きを重ねることで疑問符を打ち出す。

「暇を持て余して庶民の生活でも体験しにきたって訳だ。」

その言葉でようやく北都の思いが理解できた。

つまり北都は勘違いをしているのだ。

所詮は遊びであると、そんな遊びに付き合わされてたまるかと睨みを利かせてきたのだ。

でも。

「…ひねくれてますね。」

そう考えられても仕方がないのかもしれなくても、断じて違うと言い返す権利は栢木にだってある。

沸々と自分の中で違う感情が追い抜いていくのが分かった。

「だってそうだろ。俺に使われて馬鹿が何を偉そうに粋がってるんだって笑ってるんだろ?」

「そこまで言うなら返しますけど。貴族の私を雇ってこき使っている北都さんの方が蔑んでいるって思いませんか?」

「はあ?」

引いて誤解だと訴えれば逆効果になると判断し、栢木は北都と向き合う道を選んだ。

腹が立ったのもあるが初めて向き合えた今を逃したくないと本能で突き進む。