陽だまりの林檎姫

懐中時計で時間を見て栢木はだいたいの到着予定を計算した。

遅くなってしまった。

きっとまだ屋敷の人たちは心配しているだろう。

「お前、貴族なんだってな。」

馬車が動き始めて一息ついた頃、珍しく北都から言葉が発せられた。

いや、珍しいなんてものじゃない。初めてのことだ。

独り言ではない、会話に繋がるような言葉は実に刺々しい色を含んで栢木に向けられた。

そして睨むような視線も同時に向けられる。

この目には覚えがある、何度となく感じたあの敵意の目だ。

「…はい。」

口から出たのはとりあえずの肯定の返事だった。

そして声が出た瞬間に胸の中にストンと下りてきたものが栢木の気持ちを落ち着かせる。

「…ご存知でしたか。」

苦笑いしか浮かべられない栢木に北都は鼻で笑って一度視線を逸らす、そして再び戻ってきた双眼はより厳しい色で栢木を突き刺そうとした。

「かなり名の知れた家らしいな。顔や髪色の特徴ですぐに分かったらしいぞ。栢木伯爵令嬢?」

吐き捨てる言い方にひねた笑い方、なんと不機嫌丸出しなのだろうか。

そんなことを思うと共にこれまでの敵意の目の理由が分かった気がした。

これをずっと言いたかったのだ。

「…そうですか。」

その口ぶりからすると北都自ら気付いた訳ではなく誰かからの情報だろうと察しが付く。

でも一体誰が気付いたのだろう。