陽だまりの林檎姫

いつものように足を組み、椅子に背中を預けて資料を読む主人の姿がそこにある。

間違いない、その姿をしっかりと目に焼き付けて再び歩き始めた。

緊張と不安とが入り交じる気持ちのまま一歩一歩、震える足を進めて北都に近付き目の前で立ち止まる。

栢木が傍に立っても北都の手元に影は作らない。

しかし視線を落として書面を見ていた北都は周りの空気の変化に顔を上げた。

そこには今にも泣きそうな顔をした栢木が立っている。

一瞬、驚いたような表情を見せたのは気のせいだったのだろうか。

「見つけましたよ…帰りましょう。」

北都が口を開く前に栢木がいつも通り促した。

両手で差し出した上着は微かに震えている、それが栢木の緊張の表れだと北都は気が付いているのだろうか。

握りしめて付いた皺が灯りで影を作っていた。

表情を変えず黙ったまま栢木を見つめる北都に緊張の頂点を超えた彼女は動じない。

二人の視線はぶつかったまましばらく何も話さなかった。

しかしいつしか爆発しそうな不安もある。

この上着でさえも受け取って貰えないのだろうか。

耐えられなくなって上着を引こうとした瞬間、低い声がそれを止めた。

「…遅い。」

その一言だけをもらすと荷物をまとめて席を立ち、北都は栢木の手から上着を奪っていく。

そのまま横を擦り抜けて振り返ることなく店を後にしていった。

北都が出て行った扉を見つめていたが、やがて栢木も動き出しその後を追っていく。

店の外では上着を身に付けて不機嫌そうに空を仰ぐ北都が立っていた。