陽だまりの林檎姫

毎日毎日書斎の本と向かい合い、分からないところは自分で調べて解決していた。

身の回りの世話も全て自分で行い、目の届かないところをマリーが補っていくという生活をしていたようだ。

「今でも忘れられないのはね、北都様のお洋服を変えたときね。もう小さくなったから変えましょうと言ったときよ。」

北都は珍しく目を丸くして照れたように自分の袖の長さを確認していた。

少し短くなった袖、大きくなりましたねというマリーの言葉に恥ずかしそうにしていたらしい。

「ああ、この子もまだ子供なんだわ。そうしみじみと思ったの。」

その記憶があるマリーや同じ様に長年働くダンたちには北都がどういう人物なのかはよく分かっているようだ。

それと共にわが子の成長を見守る愛しい気持ちもある。

聡明な中にも不思議な所はいくつかあって、そんな北都に魅せられたのか役に立ちたいといつのまにかマリーはそう思うようになっていた。

彼がのびのびと育てるように、いつしか自由に羽ばたいていけるように。

それは栢木も同じだ。

何故か窮屈そうな生き方に目の前を閉ざしているカーテンを開けてやりたいと何度か思ったことがある。

少なからずこの長くもない時間で生まれた情もあるのだ。

「北都さん…。」

もしかしたら自分のことだけに必死になりすぎて、空回りをしすぎていたのではないだろうか。

北都が出していた小さな合図を見過ごしていたのではないだろうか。

きっと、この新聞も。

そう思うと感情が昂って涙が出そうになった。

もし北都が少しでも栢木の事を頭の中に入れているのだとしたら、きっとまだ待っている筈だ。

そんな期待が生まれてくる。