陽だまりの林檎姫

直感でそう思ったのだ。

「分かった。任せておけ。」

笑顔で答えたダンに胸が熱くなりながらも栢木は箱の中に戻る。

再び動きだした馬車の中で栢木はずっと図書館の広告を見つめていた。

集中する視線の奥でめぐる意識は、さっきまでの出来事を思い返している。

栢木が相麻家のボディーガードとして雇われたのは偶然だった。

面接したのは北都の父であり社長でもある相麻千秋、穏やかな印象が強い優しそうな人だったのを覚えている。

他にも何人か面接官はいたが雰囲気だけでこの人が責任者なのだと分かった。

食べていくのにも苦労していた栢木はやる気を全面に出して必死で食らいつき、そして見事この役を得る事が出来たのだ。

幸運にも仕事を探し初めて一番最初に見付けた求人が相麻家のものだった。

何故申し込みをしたかと聞かれれば、お腹が空いて仕方がなかったから。

衣食住、全てを持ち合わせていなかった栢木にはうってつけの好条件で、つまりこの仕事を失えば収入も含めて全てを失うことになる。

初めて会った時から愛想がなくて冷たい主人に振り回される毎日、それでも負けじと栢木は日々の業務をこなしてきた。

生きていくためにも自分から職を手放すことなんて絶対にしないと決めていたのだ。

しかしあまりにも会話が少ないため北都がどういった人物なのかは周りの情報に頼ることも少なくなかった。

北都は6歳の時に社長である千秋の誘いから相麻家の養子になったらしい。

相麻家の子供となり落ち着く間もなく何の悪戯か夫人は子供を授かった。それにより夫人との関係が悪くなったのか北都が気にしたのか、一人で本邸から出て今の屋敷に移り住むようになったのだ。

古くから相麻家に仕えていたマリーは北都の受け入れ準備もして迎え入れたらしい。

「一切の寂しさを見せず、とても毅然とした子供だったわ。」

マリーがそう話していたのを思い出した、この頃から口数は少なくなかったと。