陽だまりの林檎姫

「ありがとう、帰りは北都さんと一緒に帰るから。」

いつのまにか着いた公爵家の前で馬車を降り、御者に手を振った。

相麻邸とは比べものにならないくらい大きな屋敷、この門が違う世界への入り口なのだと見て分かる。

「相麻北都の付きの者です。」

門番に名乗り、証明書を見せると入る事を許された。

ここで追い返されたら門の前で北都を待つことになる、さすがに貴族の屋敷となると守りも固くなり緊張が走った。

本来なら馬車で通るであろう道を二本の足で歩いて遠くに見える玄関を目指す。

今日の会食は少し大きめなのか待機する馬車の数が多い気がして眺めながら歩いた。

おかげで少しは気が紛れたかもしれない。

豪華な貴族の馬車が並ぶ中、他に比べて質素だが品のある相麻家所有の馬車があるのを見つけ近付いていった。

「ダン、お疲れさま。」

「栢木!?よくここが分かったな。」

御者のダンは驚きを隠せず椅子から立ち上がって栢木を迎え入れる。

その顔はどこか申し訳なさそうに曇っていることに栢木は気付かないフリをした。

「いつ頃終わりそう?」

視線を建物に移して問いかける。

ダンは軽く首を振り肩を竦めて両手を挙げることで、答えを持ち合わせていない事を伝えた。

薄暗くなりつつある辺りに建物からもれる淡く光る灯りが輝いて見える。

目で見て分かる更なる世界の境界線に何も言葉が見つからなかった。

「中に入らないのか?栢木なら入る資格はあるだろう?」

眩しそうに室内を見つめる栢木にダンは静かな声で背中を押す。