「行くか?」

「はい。」

「ならば栢木の名前は連れて行け。称号も爵位も何も持たない彼にとって武器になる日が来るかもしれない。」

栢木は目を閉じて涙を流した。

北都の志が嬉しい、タオットの気持ちが嬉しい、自分の決断が許された気がして栢木の心は満たされた。

「ありがとう、父様。栢木の名前は私と共に連れて行きます。」

いい子だ、そう言いながらタオットはいつかの様に栢木の頭を優しく撫でた。

「そうか…だから昼間、北都さんの話が出た時に兄様たちの様子がおかしかったのね。」

「直接会って話をしているからな。」

北都という人物を見て誰も彼を反対しようとは思わなかった。

直向きに生きる姿勢、栢木を思う確かな気持ちにむしろ安心したのだ。

幼い頃から言い聞かせて願い続けた方向へ娘が進んでいく、少しの寂しさと誇らしさが織り交じって感情は複雑だが構わない。

「急ぎたい気持ちは分かるが少し家族サービスもしていってくれ。皆お前を待っていた。」

「ええ。ダンの休養も必要だもの。」

そう言うと栢木は立ち上がりタオットに抱きついた。

久しぶりに感じる温もりが栢木の心を癒し満たしていく。

いまは遠くにいる北都に思いを馳せて何度もその胸の中で彼の名前を呼び続けた。