陽だまりの林檎姫

「お客様、お連れ様がお決まりですよ。」

優しい声が降ってきて我に返った。

顔を上げれば笑みを浮かべた女性の店員が栢木がいる方に手を差し出して待っている。

「どうも。」

小さく答えるとゆっくりと立ち上がって栢木の下へと歩いていった。

余計なことを考えるのはよそう。

そんな思いで小さく首を振ると大きな鏡の前で嬉しそうに笑いながら立つ栢木が視界に入った。

「北都さん、どうですか？」

両手を広げて新入学生の様に意見を求める。

新鮮だ。

黒に近い深みを持つ茶色の生地は落ち着いた大人の雰囲気を醸し出していた。

ちょうど栢木の体型にあった形、品のある女性を思わせる姿に北都も言葉を失い立ち尽くしてしまう。

そうか、服装１つでここまで変わるものなのだと想像を越えた感覚に感心した。

また違う顔を見た気がする。

「髪の色にも合いますし、とても素敵ですね。」

言いにくくしている北都を助けるように店員が口を挟んだ。

そうか、違和感があったのはそのせいか。

心の中でそう呟いて1人納得した。

目の前にいる栢木が違う人に見えるのは、服も髪も全て違うから当たり前なのだ。

隠しきれない違和感を持ってはいるが、それでも栢木の選んだスーツは今の彼女によく合っているとも思った。

それは認めざるを得ない。

「いいんじゃないか？」

相変わらずの無表情で答える。