陽だまりの林檎姫

「だからまず知り合って。グループ交際からでもいいのよ、ちょっとセレブ感を味わいながら相手の人間性を吟味するじゃない?合いそうだなって思ったら踏み込んでデートに持ってくのよ。」

人差し指を揺らしたり、まっすぐに指を伸ばした状態の手で人混みをかきわけるような仕草をしたりと、言葉だけじゃなく体での表現も絶好調だ。

「金持ちの友達がいるってだけでも人生の価値が高くなるかなと思ってさ。」

実のところ栢木にもそういった目的で近付いてきた人たちはいた。

あまり楽しくない思い出だが、何故かミライの言葉には嫌悪感を抱かない。

それはきっと栢木がミライの本質を知っているからだ。

「ま、どうせ理想でも何でもない人と結婚するんだろうけどね。」

そう言って肩を竦める彼女こそが本当の姿なのだと栢木は分かっていた。

「あーやだな。うちのぐうたら親父みたいな人だけは避けたいんだけどさ、多分似たような人と連れ添うのよね。何でかな?遺伝子の不思議。」

「あはは。遺伝子か。」

「理想と現実なんてそんなもんでしょ。」

照れ隠しなのかひょうきんな顔をしてミライは脚立を持ち上げようと手を伸ばす。

栢木はそれを断ると1人で脚立を抱えて歩き始めた。

スカートのメイド服よりパンツスーツの栢木の方が動きやすいし腕力には自信がある。

「栢木は理想とかないの?あ、北都様がいるからいいのか。」

からかう訳でもなく直球に言われてしまい栢木は思わず顔を真っ赤に染めてしまった。

どうやら栢木の恋心は知られているらしい。

「…そういう訳じゃないけど。でも最高の贅沢が何かなら知ってる。」

「なに?豪華客船でクルーズとか?」

それ以上のものがあるのかとミライは少し関心を持ったようだった。

「好きな人に、好きだと思ってもらえること。その人と一生を共にすること。」

まるで誓いの言葉をたてるような言い方にミライは声を失ってしまう。