「随分と会わない内にまた綺麗になったね。どうしたの、その髪は。綺麗な金色の髪はアンナの魅力の1つだったのに。」

髪に触れようと一歩近付くキリュウに反応して栢木は一歩後ろへ下がる。

三浦の時と同じだ、大げさではなくさり気ない仕草で拒否する気持ちを態度に表した。

視線は合わせず首元あたりへ、向き合っているようでそうでない態度を示す栢木にキリュウは困ったような表情を浮かべる。

「アンナは僕の気持ちをどう考える?」

悲しさを含む声色で諭すようにかけられた言葉は栢木の恐怖を更に煽った。

背筋が凍る。

荷物を抱えた手に力が入りそうになるが、こちらの動揺を悟られてはいけないと北都の言葉を思い出した。

あの雨の日の言葉をもう一度胸の内で繰り返す。

気丈な態度で、きっと大丈夫だ。

「困ります。」

栢木の言葉を受けてキリュウは目を凝らすように細めた。

怖い。

しかし栢木は恐怖の感情と声の震えが表に出ないよう集中して背筋を伸ばす。

北都が教えてくれたように繰り返すのだ、絶対に意味があることだと全面信じてただ従うことにした。

怯えた心を見せてはいけない。

「はは。冷たいな。」

キリュウの笑い声に肩が震えそうになるが懸命に堪える。

一貫して通すのだ。

栢木は必死に胸の内で自分を奮い立たせた。

「僕は君が愛おしくて仕方ないんだよ、アンナ。」

腕を広げて訴える姿でさえ白々しく思える、しかしそれ以上に膨らんでいく恐怖心に耐える方が辛かった。