北都さん。

まるで自分から処刑台に行くような気分だ。

震える自分に負けないように口元に力を入れてしっかりと前を見据える。

潤みそうになる目も堪えるよう自分を戒めた。

暫く歩くとやがて長椅子にかけた人影が視界に入り栢木の鼓動は大きく駆け出し始める。

それが誰かは分かっていた。

やがて彼は立ち上がり、待ち構えた人物を迎える為に体を栢木に向き直す。

「お連れしました。」

「ご苦労。」

彼に会うのはあの時以来だ。

キリュウが手を挙げたことで栢木の傍に付いていた男たちが離れていく。

どこも触れられていなかったのに、両腕が解放されたような感覚に栢木はいっそう緊張を高めた。

「やあ、こんにちは。久しぶりだね、アンナ。」

声を聞くだけで鳥肌が立つなんて。

しかしもう始まったのだ。

栢木の中で覚悟を決め、静かに息を吐いて彼に向き合うよう顔を上げる。

「キリュウ殿。」

栢木の声にキリュウはふわりと穏やかに笑みを浮かべた。

傍から見れば気のよさそうな優しい青年に映るだろう、しかし栢木にはその奥に潜む影を強く感じて怖くなった。

やはりあの日と同じ感覚だ。

その場には栢木とキリュウの2人だけ。天気のいい心地よい昼下がり、木々を揺らす風が穏やかさを生む中で笑顔のキリュウと、真顔の栢木が向き合っていた。

2人だけで会うなと北都に忠告されていたがその状況になってしまっている。

呼べばいるのだろうか。

栢木はタクミに助けを求めるタイミングを計っていた。