陽だまりの林檎姫

「訳せないか。」

「いえ、訳せるんですけど…。」

本で口元を隠したまま北都を見上げれば、意味が分からないと疑問符を浮かべた北都がいる。

小さく唸り声をもらすと覚悟を決めた栢木は口を開いた。

「昨日晩飯食べ損ねた。」

突然聞こえた栢木の品の無い言葉に北都は瞬きを重ねる。

昨日と言えば屋敷に着くなりキリュウ絡みの話になって栢木は空元気で部屋に帰っていったはずだ。

そのせいで夕食を食べ損ねたというのだろうか。

「…なんですか、その顔。言っておきますけど私の言葉じゃないですからね。そう書いてあるんです。」

「は?」

「だからこの殴り書き。昨日晩飯食い損ねたって書いてあるんですよ。」

自分のことだと思われた恥ずかしさから少し顔を赤くして栢木は殴り書きを指しながら北都に訴えた。

栢木が嘘を言っている様には見えない。

だが北都もすぐには受け入れられないらしい。

「因みにここは、小遣い減らされたって書いてます。」

にわかに信じがたく目を細める北都に栢木は焦った。

「凄まないで下さいよ!私のせいじゃないですって。」

やはり納得がいかない北都の為に栢木は頁をめくって次の殴り書きを探す。

「雨の日ダルイ。」

「薬草に襲われる夢を見た。」

「妹が反抗期だ。」

次々と読み上げられる駄文に耐えられなくなった北都はついに制止の手を挙げる。

「もういい。」

その言葉に尽きる。