陽だまりの林檎姫

「北都さん?」

状況が分からない栢木は思わず尋ねたが、北都も無意識に集中したようで我に返ったようだ。

「ああ、悪い。」

そう答えたはいいがまだ少し名残がある様で少し考えに入る。

自分の中で区切りをつけた北都は顔を上げると改めて栢木に本を差し出した。

「読んでもらいたいのは部分的なものだけだ。」

「部分的ですか?」

ペンダントを服の中にしまいながら栢木が尋ねる。

北都は頷くと1冊の本を開いて特定のページを栢木に見せた。

「この本自体はレスタ語ではないが、こうやって本の端に書かれているメモがレスタ語じゃないかと思った。」

北都が差した場所には確かに殴り書きの様な文字が並んでおり、一般的に使われている言語でないことが分かる。

造語かただの悪戯か。

しかし北都が考える様に栢木には覚えのある文字の並びだった。

「はい、レスタ語ですね。」

そう言うなり栢木は北都の手から本を預かりその文章に目を通す。

「おそらくその本の前の持ち主がレスタ語を使う場所の出だったと思うんだが、その殴り書きが薬草についての重要な話かもしれないと思ってな。」

北都はもう1冊の本も開いて殴り書きのあるページを探した。

「レスタ語は詳しい辞書が無いし、分かる範囲で訳そうとも思ったがどうもうまくいかなくて。」

音を立ててページをめくる北都の口はよく動く。

真剣に話す北都の横で変な顔をした栢木がどうしたものかと視線を泳がせていた。

自分の訳し方が違うのだろうか、いや、多分そうではない。

何度見ても何度訳してもその答えしか行きつかないだけに複雑な思いが表情に出てしまう。

「どうかしたか?」

栢木の異変に気が付いた北都が不思議そうな顔をしていた。