陽だまりの林檎姫

「…そうね。ごめんなさい。」

無粋な真似はやめておこうとマリーは気持ちを抑えて2人の思いを優先させる。

気にしすぎると良い方向にいかない気がしたのもあった。

「今朝はハムを用意してるわ。しっかり食べてちょうだい。」

「嬉しい!大好物だ。」

子供の様な笑みを浮かべると栢木はそのまま嬉しそうに使用人用の食堂へと入っていく。

諦めきれない気持ちを抱えていたが、1つ息を吹き出すことで切り替えてマリーもそれに続いていった。

朝食を終え、いつもの流れで同じく朝食を終えたであろう北都の所へ向かう。

身だしなみは大丈夫、伝えることも特には無い。

「おはようございます、北都さん。」

食後の珈琲をだされたばかりの北都は視線だけで栢木の確認するとすぐに手元の新聞へと戻した。

こういう時は大抵その新聞に掲載されている講習会だか講演会に参加することが多いのだが、今日もそれはあるのかと栢木は注意深く観察する。

「今日は出ない。」

「えっ?」

「じきに雨が降るそうだ。」

そう言われて窓の外の様子を見ると、確かに雲が広がって朝だというのに薄暗い。

「栢木、お前語学が堪能か?」

新聞を畳みながら顔を上げると、今日初めて北都と目が合った。

昨日あんなことがあった分、多少気まずさがあったのだが北都はどうやら何も気にしていないように見える。

「堪能と言われましても…何語を求められているのか。」

「レスタ語だ。」

「ああ、それなら…まあ堪能ではないですけど。」

レスタ語とは古い言語で書物にはいくつか残っているが使用している人口はさほど多くは無いとされていた。