結局は今までの様にからかうだけからかって本当の事は話してくれないのだと、栢木は子供の頃に戻ったようにタクミを怒った。

まだ若いがタクミの年齢でさえも分からない。

「タクミなら隠し子くらいいそうって思ったじゃない!」

「ははは。ま、女には苦労しませんね。」

「ちょっと、そんなこと私に話さないでよ!」

夜中であるということ、屋敷の中であるという事もあって比較的声は抑えめに話していたが、思わず声を張りそうにさせるタクミに栢木は何度も睨みを利かせた。

でもこの時間がとても楽しいという事も事実だ。

夜が明ける時まで話し相手になっていたタクミは栢木が寝付いたのを機に窓から去っていった。

「おやすみ、お嬢さん。」

ようやく眠れるほどに不安を拭えたのは陽も差した頃、栢木をベッドに寝かせるとその頭を一撫でしてやる。

栢木がそれを望めばタクミの手で逃がしてやることも出来た。

勿論、それは今からだって遅くはない。

しかし栢木自身がそれを望んでいない以上、タクミにはどうしようも出来ない状態なのだ。

手元にある武器は栢木の父であるタオットから預かった手紙だけ。

時は過ぎ、確実に近付いてくる足音は心に影を落としていく。

太陽は上った。

人々が動き出す気配で栢木は短い眠りから覚める。

いつもと同じ一日が始まり、習慣をなぞりながら仕事の始まりへと進んでいった。

「おはよう。」

「おはよう、栢木。」

いつもと同じ表情、いつもと同じ仕草、いつもと同じ口調、全て昨日までと何も変わりが無いように振る舞っていく。

慣れたものだ、上辺だけの姿を作るのは今までずっと培ってきた経験値がある。