かつての暮らしとは違い全てが自分次第で回る生活、多分タクミのような生活に似ているのだろう。

「タクミに教えてもらったのよね。買い物の仕方も、街歩きの楽しみ方も。」

「買い物?ああ、値切り方とハメの外し方ですか。」

「そのおかげで割と今の生活に入りやすかったの。タクミには感謝してる。」

何ですかソレ、そう返そうとしてタクミは躊躇した。

まるで言い残しが無いようにする姿勢は別れを悟っている様にも感じられて言葉に詰まる。

「お嬢さん。」

何故そう呼んだのかは分からないが、表情で何かと首を傾げる栢木の姿に目を細めた。

芯の強い人だ。

その言葉を胸の内で呟くとタクミは口角を上げる。

「滅多にない機会なんで語り明かしましょうか。特別に俺の秘密とか教えちゃいますよ。」

「タクミの秘密!?知りたい!」

「俺、実は妻子持ちだったりします。」

急にノリ出したタクミにつられて栢木も距離を詰めて興味の深さを示した。

タクミと出会ってからこれまで彼の何かを知っている訳ではない。

一切自分の過去や生い立ちについて話さないタクミは尋ねてもかわすだけで上手に逃げていくのだ。

だからこそ栢木の好奇心が強くくすぐられた。

しかし、いきなり告げられた妻子持ち発言にさすがの栢木も固まってしまう。

「…え?嘘でしょ。」

「はい、嘘です。」

「は!?」

「隠し子がいるだけです。」

「隠し子!?」

「嘘です。」

「タクミ!!!」