おそらく北都の内面を表しているのだろうが、どうも納得がいかないようだ。

「それは臆病者か…ひねくれ者ってことですかね?」

「あはは、そんな風に見える?」

「印象もまあそうですけど、まとうオーラがね。明るくはなさそうだ。」

素直に胸の内を吐露するタクミに栢木は楽しそうに声を上げて笑った。

その様子だと栢木も同じことを思ったことがあるらしい。

しかし笑うだけ笑うと愛おしそうな表情でタクミに告げた。

「でもね、とても清らかな人よ。」

ああ、そうか。

その言葉だけでタクミはもう悟ってしまった。

北都との未来を望んでいない栢木には今が一番かけがえのない時間なのだと分かってしまったのだ。

だから動けないし、動かない。

たとえ最悪の結果になったとしても今の記憶を刻み込む為にこの場所を離れたくはないのだ。

「…本当に、あんたって人は。」

これ以上ない賞賛の言葉だと受け止めてもらいたい。

「で?俺はどうすればいいんです?夜が明けるまで暗黒先生の惚気話でも聞いてればいいんですか?」

「その勇気があるのなら。」

「親子揃って鬼の様ですよ。」

「父の惚気話聞いたことあるの?」

「基本惚気でしょ。そうでなくてもあの人は人使いの荒さが鬼です。」

給金を上げる様に助言しようという栢木の申し出に首を振り、労いで酒さえ出してくれればそれでいいとタクミは肩を竦めた。

「俺は金を持つことに慣れてないんでね。重たくて仕方ない。」

タクミらしい物の考え方に微笑むと栢木は今の自分の生活を思い浮かべる。