「西訛りです。」

西とはつまり栢木の故郷がある地域を指すもの、それは親戚でもあるダグラス家の所在も同じ場所であるという事だろう。

いま栢木たちがいるこの地方では西訛りは耳に残るほどの印象を与える。

栢木は社交界で鍛えられている為訛りを消すことが出来るがおそらくケイトが言葉を交わした人物は遣いの者だ。

キリュウも栢木と同じ様に訛りを消すことが出来る筈だから。

「間違いないですね。」

そう言って栢木は伏し目がちに呟いた。

彼はもう、この場所まで知っている。

「キリュウさんです。」

自分で発した言葉に縛られてしまったようだ。

栢木はその言葉を最後に何も言わなくなってしまった。

事情が分からないミライとマリーは2人の只事ではない様子に不安を覚える。

互いに顔を合わせても何かを見つけられる訳でもなく、ただこの空気の理由を求めていくだけ。

諦めたように表情を失っていく栢木の傍には厳しい面持ちの北都が立っている。

北都がケイトからの手紙を握りしめる音が夜のロータリーに響いた。

闇が全てを飲み込んでしまう気がした。