陽だまりの林檎姫

通りの向こう側を歩く栢木を見つけた時はただ呆れた。

しかし馬車の前に栢木が飛び出した時は全身の体温が無くなる位に体の感覚を失った。

助かったと安堵したのも束の間、栢木を抱く見知らぬ男の存在に無心で駆けだしたのだ。

栢木を失うかもしれない、そんな思いを立て続けに味わいようやく北都は自分の気持ちに名前を付けた。

とうに気付いていた気持ちを確かなものにしたのだ。

「栢木。」

そう言って立ち上がると北都は栢木の横に座り彼女を優しく抱きしめた。

栢木に触れたことは何度かある。

最初は何も感じなかったのに次第に触れた場所がくすぐったく思うようになったことは知っていた。

他意は無く髪についたゴミをとろうとした三浦の手を拒んだ栢木を見た時は正直意外だったのだ。

栢木も他の女性の様に三浦には愛想を振りまいていたから。

しかし少しずつ栢木と関わっていけばそれが作られたものだと知り、普段北都の前で見せている姿こそが栢木のありのままのものだと分かった。

よく笑いよく怒る、貼りつけたような笑みはなく花が咲いたように笑うのが栢木だ。

ある日ふと栢木が痩せたような気がして無意識に彼女の頬に手を伸ばした。

いつかの三浦の様に拒まれる、そう思ったが栢木は受け入れ顔を真っ赤に染めた。

近い距離にいる。

そう感じてからは何度となく栢木に向けて手を伸ばすようになった。

髪に触れたり頬に触れたり、触れるたびに栢木が真っ赤に染まるのが楽しくて笑う。

余裕だと思われからかっているのだと睨まれるが実際にはそうでも無かった。

触れた感覚が指から消えずにどうしようもなく悶えた日もあるのだ。

きっと今日もそうなる、北都は苦笑いをしながら栢木を抱く手に力を入れた。

「とにかく無事でよかった。」

キリュウとは何も関わりが無い出来事で良かった。

その思いで栢木の頭を優しく撫でる。